大判例

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東京高等裁判所 昭和31年(う)2138号 判決

被告人 栗原茂男

〔抄 録〕

弁護人の控訴趣意第一点について。

被告人に対する昭和三〇年二月四日附強盗殺人、窃盗被告事件起訴状記載の公訴事実中には、冒頭に被告人栗原は(中略)定職なく素行の修まらなかつたものであるが云々の記載の存することが認められること所論のとおりである。しかし右冒頭記載の部分はその全文を通読すれば、被告人が右起訴状記載の公訴事実である強盗殺人、窃盗の各事実の共犯者であるとする原審相被告人中河澄雄と互に相識るに至つた径路として右両名がいずれも定職なく素行の修まらなかつたものであるが、偶々昭和二九年一二月一八日川崎市堤根町一五番地旅館あづま館こと小林一郎方に同宿した際相識るに至つたものであることを記載したものであることが認められ、本件における強盗殺人というような重大犯罪が共犯者によつて行なわれたものであるとする場合に共犯者が互に相識るに至つた径路を公訴事実中に記載することは事実関係を明らかにするため相当である。ただその記載のうち被告人等が定職なく素行の修まらなかつたものであるとの記載は訴因を明確にするため必要ではなく、適当でもないのであるが、かような記載事実自体は公訴事実の存在を推断させるに足る事実ともいい難いのであるから、裁判官に事件につき予断を抱かせる程度のものであるとは認められないのである。しからば被告人に対する前記被告事件起訴状中の公訴事実の記載は所論のように刑事訴訟法第二五六条第六項に違反するものではなく、原裁判所が前記被告事件の公訴を受理して審理判決していても所論のように不法に公訴を受理したものということはできない。それ故原判決には所論のような違法はなく論旨は理由がない。

同第四点について。

被告人の犯情について記録を精査し、かつ当審における事実取調の結果を参酌して考えるに、被告人は昭和二四年一〇月横浜地方裁判所において窃盗強盗罪により懲役四年に処せられ、これを不服として控訴して保釈中窃盗罪を犯し、昭和二五年六月六日川崎簡易裁判所において同罪により懲役一年に処せられ、次いで同年七月二日東京高等裁判所において窃盗強盗罪により懲役四年に処せられ、右川崎簡易裁判所において判決言渡を受けた直後留置場から逃走したため、同年七月二六日横浜地方裁判所において逃走罪により懲役三月に処せられ、以上各刑を服役して昭和二九年一月一八日青森刑務所を出所して僅か一年以内に本件各犯行に出でたものであり、しかも原判示第二、の強盗殺人の犯行の翌日原判示第三、の強盗傷人の犯行を敢行したものであること、原判示第二、の犯行は夫が早朝出勤して主婦が独り留守居をしているを知り計画的に襲い、既に手足を緊縛され無抵抗の状態に陥つていた主婦を強盗目的達成後絞首して殺害し、しかもこれに用いた手拭を頸部に固く結んで逃走していること、原判示第三、の犯行は午後一〇時三〇分頃菓子商を営む老人夫婦が二人だけの暮しで裕福であることに着目して計画的に襲い、家人が立ち騒ぐや、頸部をマフラーで絞め、或いは顏面を手拳で殴打し全治二週間を要する顏面打撲傷を負わしめたものであること、原判示第二、の強盗殺人の被害者大沼テイ子(当時二一年)は昭和二七年四月大沼広と結婚し義父和賀光治郎が新築してくれた東京都大田区西六郷三丁目二四番地所在の家屋に世帯をもち、翌昭和二八年四月長女恵子を儲け円満平和な家庭生活を営んでいたものであり、昭和三〇年一二月二七日午前六時過頃鳶職として義父の工事現場の勤務に赴いた夫を送り出した後、同日午前七時頃被告人の本件強盗殺人の犯行により生命を失い、結婚後三年有余にして夫及び満二才の長女を遺して世を去つたものであり、共犯者中特に被告人は同女の夫広とは小学校時代の同学年生で同女の義父に対してはその下に職を得た恩義があるのに、共犯者である原審相被告人中河澄雄に強盗をするに適当な家として大沼広方を教え、犯行前日中河澄雄と共に大沼方門前まで行つて様子を窺い、更に犯行現場においては同女を絞首後姦淫の目的で同女の下着を脱がせていること、原判示第三、の強盗傷人の犯行の被害者浅賀清十郎及び浅賀トメ(各当時六九年)は被告人等の犯行により異常な精神的肉体的衝撃を受け、殊に被告人は浅賀清十郎を手拳でその顏面を殴打し全治二週間の打撲傷を与えたものであり、その後いくばくもなく浅賀清十郎は死亡し浅賀トメは孤独の老後を送つているものであること、被告人と原審相被告人中河澄雄とは本件強盗殺人、強盗傷人の犯行の結果に対しては同等の責任を負うべき地位であり、その間に軽重差異の認められないこと及び被告人の本件各犯行当時の是非弁別能力に障碍の認められないこと等被告人の本件犯行の動機態様、犯行後の情況と被告人の年令、性格、経歴、境遇等諸般の事情を考え合わせると、被告人の生命軽視の異常な感覚、人倫意識の微弱によつて現われている反社会性、反倫理性は顕著なものがあり、強盗殺人、強盗傷人の犯行の被害者には平和、幸福な家庭を失わせ、遺族をして痛く悲嘆させていると共に、社会一般に著しい不安と衝撃を与えたものであるといわねばならないのであつて、被告人の本件犯行による責任は極めて重く、原判決が被告人に臨むに死刑を以てしたのは洵にやむを得ないところであり、原判決の科刑は過重であると認められないから、原判決の量刑不当を主張する論旨も亦いずれも理由がない。

(加納 吉田作 山岸)

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